ファッションのチカラ

『ファッションのチカラ』今井啓子著
■ウェルネスの考え広めた著者

 本書は、現代ファッションの流れをわかりやすく俯瞰(ふかん)しており、読み物としてもたいへん面白い。しかし、モード誌「ハイファッション」の編集者として、また百貨店のバイヤーとして世界を股(また)に掛けて華やかな仕事をしていた著者が、どうして一見地味な「ユニバーサルファッション」を提唱するに至ったか。その道程はさらに興味深い。ファッションの「チカラ」にも納得。

 私が著者と初めて一緒に仕事をしたのは、資生堂の社員時代。後に「サクセスフル エイジング」と命名されるプロジェクトにおいてだ。人の加齢をワインが熟成してこそ芳醇(ほうじゅん)な香を放つがごとくポジティブにとらえよう、美しく年を重ねるために役立つ、化粧品会社として持っている知見を編集し発信しようという、社内横断プロジェクトであった。高齢化社会の到来を予感させる昭和63年にスタートし、翌年、フォーラムや出版などのかたちで発信したのである。このメッセージは予想を超える反響を起こし、以後運動が継続されることとなった。

 例えば、私たちは紫外線の「害」にスポットをあてた。このとき著者は、白内障予防のためには、瞳孔が開いてしまって逆に害になる普通の黒眼鏡ではなく、UVカットのサングラスが必要であると説き、大きな反響をよんだ。著者は当時、ライフグッズ部という部署で商品開発を担当していた。彼女がニューヨーク大学で学んだウェルネス(健康学)の考え方に基づき、さまざまな商品を生み出すのを見て感動した私は、それを機にガードルと訣別(けつべつ)したのを覚えている。
 著者と私は平成9年、共に同社企業文化部に異動し、「シニアエキスパート」として5年間勤務した。この間、著者はウェルネスの考え方を大いに広め、私も、彼女の膨大な知識と人脈にとてもお世話になった。
 本書は古希記念出版という。でも、古希などという言葉の似合わない今井さんである。(ちくまプリマー新書・798円)

 世田谷文化生活情報センター館長・高辻ひろみ
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【プロフィル】今井啓子
 いまい・けいこ 昭和12年生まれ。「ハイファッション」編集部、高島屋、資生堂を経て「湘南くらしのユニバーサルデザイン商品研究室」を設立。

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